酸化物エレクトロニクス

 パソコンやワークステーションなどの情報通信機器の発達には目を見張るものがある。これは、これらの飛躍的な高機能化や価格の大幅な低減によるところが大きい。そして現在、インターネットを通して新しい情報通信手段としての地位を確立しつつあり、社会全体のシステムを変えようとしている。これがIT(Information Technology)革命である。

 半導体集積回路や光ファイバの中には従来からSiO2などの酸化物も使用されているが、これまでのハードウェア技術の中心は、シリコン結晶を中心とする半導体技術であった。しかし、高集積化・低価格化・高機能化の要求が益々高まり、既存の半導体技術だけでは限界が見えてきた。そこで、注目されているのが、強誘電体、強磁性体、高温超伝導体を始めとする金属酸化物を用いた酸化物エレクトロニクスである。

  金属酸化物材料は、将来のエレクトロニクスの発展に不可欠であり、強誘電性、強磁性、絶縁性、半導性、金属性、超伝導性など様々な物性を発現する電子機能の宝庫である。その機能性を十二分に発揮させるための課題としては以下のことが挙げられる。

 

1) 多元系酸化物材料の組成を適切に制御
2) 良質な酸化物材料と高度に発達した既存の半導体材料との融合

 金属酸化物は文字通り酸素を含むため、W族、V−X族を中心とした純粋な半導体との接合は多くの技術的な問題を引き起こす。例えば、Siの上に高品質な金属酸化物材料を結晶方位をそろえて成長させることはSiの酸化のため一般に困難である。そこで、W族物質、金属窒化物、金属酸化物の物性を把握しながら結晶成長させる技術が重要となっている。


レーザアブレーション法による薄膜堆積の概要

 パルスレーザアブレーション (PLA)法による薄膜堆積は、パルスレーザービームを所望の材料で構成されたターゲット上で集光し、そのエネルギーで射出した材料粒子を基板上に輸送することによって行う。この時、ターゲットからプルームと呼ばれる発光が観測される。また原子・分子からミクロンサイズの液滴状粒子まで、種々のサイズを有する粒子が薄膜堆積を支配していると考えてる。


PLA薄膜堆積法の特徴

光を吸収する物質ならば高融点のものでも容易に薄膜化可能
エネルギーが光で堆積槽中に導入されるため、ヒータやフィラメントなどからの汚染がなく、かなり強い酸化雰囲気での薄膜堆積が可能
必要に応じて高真空中での堆積も可能
ターゲット組成が薄膜組成として転写される
条件により、サブミクロンサイズの液滴状粒子が薄膜上で生成される
大面積薄膜の均一堆積は不得意だが、パルスレーザの飛躍的な進歩により改善されつつある


詳しくはPLA法による薄膜堆積に関する執筆記事を参照


レーザアブレーション法による薄膜堆積に用いられる各種レーザ

  レーザをそのパルス幅で大きく分けるとCWレーザ、ナノ秒パルスレーザ、フェムト秒パルスレーザなどに分類される。当研究室で主に使用しているのはナノ秒レーザで、エキシマレーザ及びYAGレーザである。そのパルス幅をまとめると以下のようになる。

Lasers

Wavelength

Pulse width

Excimer

ArF

193 nm

6-12 ns

 

KrF

248 nm

6-12 ns

 

XeCl

308 nm

6-12 ns

Nd:YAG

4th

266 nm

5-20 ns

 

3rd

355 nm

5-20 ns

 

2nd

532 nm

5-20 ns

 

Fundamental

1064 nm

5-20 ns

Ruby

 

694 nm

1 ms


  代表的なエキシマレーザを200 mJ、10 Hzで運転したときの様子を下記に示す。 200 mJでもパルス幅が小さい分だけ非常に高い尖頭パワーを有するレーザパルスが得られることがわかる。このような高いパワーと波長の自由度により、パルスレーザは、眼科治療や歯科治療など種々の先端医療技術に使用されているだけでなく、Si薄膜トランジスタの作製、LSI作製、各種微細加工など幅広い分野で利用されている。

レーザアブレーション法による薄膜堆積に用いられる真空装置

  下図のように10-7 Torr程度に真空排気した真空槽に、レーザアブレーションを行うターゲット材料を配置し、ヒータで加熱した基板上に薄膜を堆積する。この際、真空槽は必要に応じて酸素や窒素などの雰囲気ガスで満たされる。

  写真左は装置の全体を示し、写真右は窓からのぞいた装置内部の様子である。複数のターゲットがロータ上に設置され、ロータ回転によりターゲット交換を行い種々の薄膜を積層できるようになっている。

装置の全体像 堆積層内部