“アモルファス”とは?

結晶Si アモルファスSi
「アモルファス」というのは構造的には結晶のように原子配列が規則的(左図:周期構造を持つ)ではなく短距離秩序はあるが、長距離秩序がない固体のことである。
 アモルファス(amorphous)とはギリシャ語の
“a-morphe”から来ており「はっきりした形を持たないもの」という意味である。すなわち「アモルファス」とは結晶でない固体のことである。
 
 図を見ても分かるように結晶Siは4配位で規則正しく配列しているのに対し、アモルファスSiは結合の仕方がランダムで構造が幾何学的に均一であることが分かる。アモルファス(非結晶)は結晶と比較して議論される事が多く、

@長距離秩序がないため組成比などの物理的定数を連続的に変化できる。
A均質で粒界がない。
B構造に乱れがある。
C熱力学的に非平衡系である。


などの特徴があり、これらの性質を生かして太陽電池、TFT、テレビ撮像素子、感光材料などが実用化されており、その他の分野への応用も期待されている。

アモルファス半導体研究30年の流れ

カルコゲナイド系の研究--Kolomietsら(ソビエト、ヨッフェ研) 1950年代

As-Te-Ge-Si 多元系カルコゲナイド薄膜における電気的スイッチ及びメモリ現象の発見---Ovshinsky(米国,ECD) 1968年


カルコゲナイド系全盛時代
・Se-Te-Asによる撮像素子(日立とNHK:1973年)
・Photodarkening---光構造変化(田中一宜:1975年)
・アモルファス--結晶の可逆的相変化--書き換え可能DVDの相変化型メモリ材料として実用化(1988年)
・Photodoping
・負の実効的電子相関エネルギーを持つ荷電欠陥の存在(Street-Mottら、1975年)
・化学修飾(chemical modification)---Ovshinskyら(1977年)


水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)の登場
・SpearとLeComberによるpn制御の成功(1975年)--電子デバイスに発展(太陽電池、TFTなど)
・StaeblerとWronskiによる光劣化現象の発見(1977年)
・フッ素化アモルファスシリコン(Ovshinskyら、1978年)
・桑野ら(三洋)によるアモルファス太陽電池の実用化(1980年)
・a-Si1-xGex:H、a-Si1-xCx:Hなどのバンドギャップ制御合金薄膜の登場(1980年頃)
・平林ら及びDerschらによるESRによる光生成欠陥の発見(1980-1981年)
・光劣化・光生成欠陥に対する各種モデルの登場(1983年頃から現在まで)---未解決
・a-Si:Hによる液晶ディスプレイ駆動用薄膜トランジスタ(TFT)が広く実用化(1990年代)
・アモルファス太陽電池:光劣化後安定化効率9.5%(30×40cm2の大面積)達成(1998年)


アモルファス半導体及び周辺分野の研究の現状と21世紀へ向けての課題
・周辺分野:a-Si:H⇒μc-Si:H、多結晶(ポリ)Si薄膜など
・21世紀へ向けての課題
・a-Si:Hにおける光劣化(光生成欠陥)の機構の解明と抑制策
・薄膜成長機構の解明
・アモルファス太陽電池の安定化効率の向上と安価な作製法
・photodarkeningやphotodopingなどを用いたカルコゲナイドの実用化
・光ファイバー通信用希土類元素(ErやPr)添加アモルファス半導体

太陽電池


 私たちを取りまく生活環境は激変しており、多くの新しいトレンドが生まれはじめている。マルチメディア化は家庭にも及び、光通信技術の普及、あるいは地上デジタル放送の普及による多チャンネル化に代表されるように、家庭での消費電力量、および夜間消費電力の増大などの変化が起こりつつある。また高齢化社会の進展が予想され、まもなく日本は世界のどの国も経験したことのない超高齢化社会に突入することが考えられる。そこでバリアフリー住宅と銘打ち、敷居などの段差をなくしたり、お年寄りの動向をモニターするシステムの普及、その他にも家庭内におけるオール電化への流れなど、やはり電力需要の増大が見込まれる。

 一方で
環境問題を意識し、冷暖房効率を高めた高気密・高断熱住宅、雨水の有効利用、省エネ自動車など、エネルギー消費を抑えることのできるシステムも普及してきた。それでも私たちの豊かな生活を保つためには電気エネルギーをより必要とする。特に途上国での人口の増大は、より多くの電気エネルギーを必要としている。そこで自然の力を最大限に利用し、新しい時代に必要となるエネルギーを太陽光などのクリーンエネルギーでまかなう時代がやってきており、その中でも太陽電池の果たす役割はますます大きくなるであろう。

太陽光発電の優れた特徴
●エネルギー源が膨大で非枯渇性
 エネルギー源である太陽光は、その寿命は半永久的でありタダである。
● クリーンなエネルギー源
 環境に悪影響をあたえる排気ガスや有害物質を出さず騒音もない。
● いろいろな発電規模に利用可能
 太陽電池は電卓に用いる小さな小規模のエレクトロニクス用から、住宅に用いる大きな発電規模の電力用システムに至るまで応用が可能である。また太陽電池の変換効率は、発電規模にかかわらずほぼ同じである。
● 使う場所で発電
 従来の発電システムは、発電所と電気を使う場所が離れており送電が必要となる。しかし太陽電池の場合は電気を必要とする場所で発電できる。例えば住宅の屋根に太陽電池を設置することにより家庭用発電所が可能である。 

 近年、水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)と呼ばれる材料が太陽光電池のような光電変換材料として注目されている。アモルファスとは、構造的には結晶のように原子配列が規則的(周期構造をもつ)ではなく、短距離秩序はあるが、長距離秩序はない固体のことである。短距離秩序とは最近接原子の数、結合距離、結合角がほぼ定ことをいう。熱力学的には、アモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態にはなく、自由エネルギーの極小値である、非平衡準安定状態にある。2) アモルファスシリコンは可視光域の光を吸収する割合が単結晶シリコンとくらべて非常に大きいため、半導体層の厚さが1μm以下でも十分に太陽光を吸収できるので、超薄膜太陽電池が実現できる。以下にアモルファスシリコン太陽電池の主な特徴をあげる。

@ 300℃以下の低温で作製できる
A 薄膜構造であるため、必要とするシリコンは結晶シリコン系の300分の1
B 製造工程が簡素
C 加工が簡単


 結晶シリコンの製造には、
800℃以上のプロセスが必要なのに対して、アモルファスシリコンの形成に用いるプラズマCVD法は気相反応を利用しており、製造プロセスの温度も300℃以下とかなり低い。このため、ガラスをはじめステンレスなどの金属やプラスチックフィルムのような耐熱性プラスチックなど、多様な基板上にアモルファスシリコン太陽電池を形成することができる。 しかし1977年に、StaeblerとWronskiによって光劣化現象が発見された。これは、水素化アモルファスシリコンに100mW/cm2程度の強い光を長時間照射すると、暗伝導度光伝導度ともに低下するというもので、このとき、中性ダングリングボンド(D0)も増加することがわかっている。光劣化後、160℃以上のアニールで元に戻ることもわかっている。この光劣化現象のメカニズムについては様々なモデルが提唱されているが、確かなことはわかっていない。


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